2日連続の残業から、今日も早朝出社。
また、現場をまわり、昨日の作業計画表を提示してまわり、
自分の机でコーヒーを一杯。
8時前に課長が出社してきました。 さっそく、課長に昨日、考えていたことを相談します。
課長、おはようございます。
ここ2日連続の進捗確認や、作業計画表の再作成業務で、実は考えていることがあるのですが、バルブを作っている部署では生産管理システムを使って、進捗確認や作業指示を実施しているようですね。
なぜうちの部署では使えないのか、それとも使えそうなのか、 ちょっと、聞きに行ってきたいのですが、いいでしょうか?
よし、勉強してくるのはOK。
じゃなー、あっちの課長に電話しておくか
いえ、大丈夫です、実は同期がその担当なので、そいつに聞いてこようと思ってます。 今日、午前中も結局、新人指導が無いので、いまから行っていいですか。
よし、行ってこい。なんかあったら、内線で呼ぶから、午前中いっぱい聞いてこい。
有り難うございます。では行ってきます。
工場の中庭を横切り、ひときわ大きい建屋を目指します。
フォークリフトが頻繁に出入りしている横を通り過ぎ、工場内の現場事務所に向かいます。
なぜか、こちらの工場は、私の職場よりもきれいです。
現場事務所で、パソコンを見つめている同期の高橋君を見つけました。
よー高橋君、ちょっといいかな。
生産管理の仕組みを勉強しに来たんだけど、
午前中、ちょっと横で、作業を見ててもいいかな。
仕事の邪魔にならないようにしてるから、
あまり仕事の邪魔をする気は無いんだけど、
できれば、 簡単に説明しながら作業してくれると、たすかるんだけどなー
いいけど、どうしたんだよ。
いつも忙しくしてるのに。今日はそんな時間があるんだ。
いやー、実は、2日連続で深夜勤務してね。
その原因が仕様変更対応と現場でのおシャカなんだよ。
2日連続で、工場中の現物探して、進捗チェックして、作業計画表を書き直してさー」
「そりゃー、たいへんだー。こっちはすべて、システム対応してあるからね。
今はやりの「みえるか」だよ。だいたいこの端末を見てれば、製造現場の状況がわかるんだよ。
いながら、高橋君は周りを見渡し、近くにだれもいないことを確認し、
内緒だけど、実は、今、あんまり忙しくないんだよ。
と笑いながら言っています。
まー、なんでも聞いてよ。
ということで、色々と説明を聞きました。
高橋君の説明を要約するとこうです。
日々営業からくる受注情報をオーダとしてシステムに入力。
オーダには製品の属性が設定してあるので、その製品マスターから部品表を参照し、手配品の手配が行われる。
社内工程に関しては、手配品の納期と連動して、作業手順が部品表から自動生成され、生産スケジューラと呼ばれるものに登録され、前日までに収集された実績を反映して、スケジューリングが行われる。
スケジューリング結果から自動的に在庫引き当てと在庫補充の計画も立案される。
製造現場への作業指示は、POPと呼ばれるシステムに本日の生産目標数量が表示され、製造現場では、定期的に、生産数量を実績として、バーコードリーダを使用し、生産品目をスキャンして、製造数量を入力しているのだそうです。
なんとなく、便利だということはわかりました。
たしかに、これなら、今現場でどの製品がどのぐらい生産されている。在庫がどれぐらいある。など
状況が把握できます。 ただし、自分の部署で使用するには、問題がありそうです。
高橋君、うちの部署は、企画品じゃないので、製品属性や部品表がないんだけど。
受注後に、毎回現場の課長、職長と打ち合わせして、作業手順や作業工数の見積もりをしてるんだよ。
また、作業している途中で、設計変更や再作成など、作業手順がころころ変わるんだよね。
ちょっと待ってくれ、伊藤君。
いま部品表がないって言ったよね。
あー、そうだよ。うちの部署は、一品一様の製品を受注生産しているので、 設計が終了しないと購入品の手配もできないし、作業内容もわからないんだよ。
伊藤君、そりゃ、生産管理の前提が無いって事だよ。
部品表が定義できないと生産管理システムは使えないよ。
意気揚々と勉強しにいったのはいいが、簡単にノックアウトされて、自部署に戻ってきました。
課長に、量産工場でうまくいっている仕組みは一品一様の我が部署では、使えそうもないこと。
そもそも、部品表というおおもとのデータが作成できないことを説明し、ちょっと落ち込みながら、昼食を食べ始めました。
ここの社食のメニューは安さと量が取り柄えで、毎日昼と夕方の2食をほぼここで食べています。
大学の友人達に聞くと、毎食ビジネス街のお店で外食すると、昼食で千円以上でていくそうです。
私は、毎日2食で800円以内です。
あー仕事で壁にぶち当たって、食費について考え事してるなんて、だいぶ参っているようです。
そのとき、携帯に電話が。彼女からです!
もしもし
やー、
いま大丈夫?
うん、食事中だけど、今終わるので、かけ直すよ
わかった。
社食をでて、中庭に行き、彼女に電話します。
やー、この前はわるかったね。
いや、私の方こそ、理由をちゃんと聞かないで、怒ってごめん。
今日、このままトラブルがなければ、早く帰れるけど。
わかった、夕方電話してね。期待しないで待ってるから
よかった。仕事は忙しいし、全然改善される気配はないし、
自分でちょっとがんばろうと思ったら、簡単に挫折するし、このまま気まずい関係のまま、関係を修復する努力も労力がいるし、終わってしまうのかと、ふと気弱になりかけていましたが、さて、今日は、このままトラブルも無く、終われれば、またには、定時で帰ろう!
夕方、昨日以来の計画変更による現場の進捗状況を聞いてまわり、大きな問題は無いとのことで、課長にも、2日連続深夜勤務したので、今日は、定時に帰りますと告げ、工場からぞろぞろ出てくる社員の流れに乗って、駅に向かいます。
その途中で、彼女に電話し、待ち合わせ場所を決めました。
彼女より先に着き、先にビールを注文し、一杯飲み始めました。
よ!
と言って、彼女がきました。一人で飲み物を注文し、
食べるよね!
と私に言って、オーダーを始めました。
オーダーが終わると同時に、彼女の飲み物が来ます。
あざやか!いつも段取りいいんだよね。
さて、とりあえず、おつかれ!
といって乾杯し、先ずは私から、
先日はごめん、あまりにも疲れ果てて、状況を説明するのもしんどくて。
まー、私も聞き上手になってあげればよかったんだけど、
そうは言っても、伊藤君のドタキャンは多すぎるし、そんなに、急に残業になったり、 普通しないでしょう。
そうなんだよ、会社の同期にも言われるんだけど、俺の職場が、なにせ特殊な環境で、 うまく説明できないんだけど、毎日トラブルの山なんだよ。
そんなトラブルの山の職場って、トラブル対応室みたいなところ?
でも工場の中で現場じゃなくて、事務処理してますっていっていたよね、 いままで詳しく聞かなかったけど、ちゃんと話して!
ということで、彼女にとくとくと自分の仕事内容について説明しました。
数分説明した後、彼女の目が気のせいか輝いています。
まいったなー、伊藤君の仕事も知らなかったけど、私の仕事も説明してないよねぇ。
と彼女がなんだかうれしそうに話します。
君は、たしか、営業からコンサルタントのような仕事に変わったっていっていたよね。
うん、良く覚えていてくれたわね。
私はね、実は! 今、製造業の業務改善を手伝う仕事をしているのよ。
まだ、コンサルタントというにはおこがましいけど、もうかれこれ2年以上勉強しているのよ。
えーということは、俺の悩みが理解できるよね。
もちろん、理解できるというより、改善の手伝いができるんじゃないかと思うけど
え、まじで!
先ず、伊藤君の職場だけど、
典型的な個別受注の職場よね。
受注してから設計、製造を行うんでしょ。
世の中の生産管理は、たいてい、部品表がベースにあって、いかに在庫を削減するかをポイントにしているけど、 伊藤君の職場では、中間在庫なんてないでしょ。
そうだね、標準部品のような購入品の在庫は若干あるけど、中間在庫なんてないよ。
そうそう。
実は、今日、同じ社内の別の部署にいる同期にそこで使っている、生産管理の仕組みを聞きに言ったんだよ。
そしたら、部品表が無いなんて、生産管理ができないよ。って言われて、がっかりしてたんだよ。
部品表が無くても、なんとかなるのかなー。
はい、ポイントはいいですねー
と言う彼女の顔はやけにうれしそうだ。
部品表は、ものを中心にして、ものの変化を現していくんだけどね、
伊藤君の職場は、設計業務や工場出荷後の現地工事まで対象でしょ。
だから、ものでは無くて、発生する作業を中心に考えないといけないんだよね。
だから、既存の生産管理の仕組みでは無理があるので、別の管理手法が必要なんだよね。
へー、それで別の管理手法って
まあまあ、料理が冷めない内に食べなきゃ。
と言いつつ、俄然、彼女の目は輝いているように見える。