新米班長いとう君

新米班長 いとう君 第二話「一難去ってまた一難」

前回のお話

重工業のプラント設備や各種専用機、そして生産準備工程として量産するための製造ライン、治具・金型などを製作している工機部門などの受注設計生産である。 個別受注生産では、受注前後や製作の途中で、製作方法の改善による見直しや、製造の不具合などにより作業の変更が発生する。 研究開発部門や設計側も日々、改善やコストダウンを目標にしている。製造期間が半年や1年といった重工業のプラント設備では、製作途中で、この改善やコストダウンによる仕様変更・ 設計変更により、作業手順の変更や工数の変更が頻繁に発生する。 つまり、計画を行うための情報が変化していくのが大きな特徴である。 また、生産準備工程として、量産するためのライン、治具、金型などを製作している工機部門では、量産現場からの補修品が飛込みオーダーとして入ってくることがある。量産部門の生産を止めるわけにはいかないため、工機部門ではこれらの特急オーダーに大至急対応する必要がある。 個別受注生産では、このような事象により、製造現場は常に混沌とした状態に置かれている。 そして、個別受注生産では、受注時にすべての仕様が FIXするわけではないため、設計後の製品仕様の客先承認といった作業も発生する。 ところが、昨今、製品の納期遅延には巨額のペナルティが科せられることがあるが、承認の遅れに対する罰金はあまり聞いたことがない。これは、いつまでに承認を行わないと、納期がこれだけ遅れる、といったマスタースケジュールを提示することができないのが問題の根底にある。 さらに、最近は、必要なものが必要なタイミングで入手できないという問題も発生している。素材メーカーや部品メーカーが国外に出て行ったために、海外調達しなければならないものが増えてきたのが大きな理由である。 そして、国内調達では考えられなかったことだが、発注したものが納期どおりに納入されないといった問題も発生する。 個別受注生産では、時間軸に沿って、内示、受注、設計完了、出図、その後の仕様変更、設計変更と、受注前後から、出図前後、製造途中でも作業手順や作業工数が変わっていくのが前提となる(図表.1) 個別受注生産の問題を簡単に表すと、さまざまな要因で作業の遅れが発生し、その結果、納期が近づくにつれて、残業、特急扱い等のドタバタが発生することになる。このドタバタが、品 質・コストに深刻な影響を与え、悪循環となっていく。 ...

昨日のどたばたから、結局深夜までの作業になり、しかも彼女には、

彼女

いつも約束守れないじゃない。そんな仕事あるの?

ほんとは仕事じゃないんじゃないの。

と言われ、疲れていたので、反論もせずに、謝り続けました。

朝起きたら、もうちょっとちゃんと説明すればよかったな、と思いましたが、昨日作成した作業予定表が、かなりの予定変更を余儀なくされ、納期余裕があったオーダも、ぎりぎりの状態です。

これをまた現場の課長に見せて、こんな予定で大丈夫か?こんな予定できるのか?

などと、攻撃される姿が脳裏に浮かび、今朝は、始業時間前に出社し、

工場内の現場主任の机に、先に、昨日作り直した作業予定表を置いてまわる予定です。 朝、守衛さんに、

守衛さん

いとう君、今日は早いね~、またトラブル?

と言われ

いとう

いいえ、O社の仕様変更対応です。
現場の課長さんがうるさいので、 怒られる前に、今日は先に予定表を机の上に置いてまわろうと思ってます。

と、告げ

守衛さん

あそこは大変だからなー、でもがんばれよ!

と励まされ、

ちょっと気を取り直し、昨日印刷した作業予定表を班長の机に置いてまわります。

一巡して、だれもいない現場事務所の自販機で缶コーヒーを買い、ちょっと休憩です。

時計は7時45分。そろそろ作業者が出勤してくるはずです。

試験課の課長が来ました。

試験課の課長

おー、いとう、早いなー、予定できたのか。

いとう

はい、机の上に。

試験課の課長

そうか、俺より早く来るとは、だんだん仕事がわかってきたな。

いとう

はい!

試験課の課長

ところで、若いんだから、いつまでも現場を歩いて作業の進捗の確認なんてしないで、頭使って便利な道具作れよ。

試験課の課長

俺は、若いときに、そこの黒板に、予定を書いて、現場の班長に仕掛かったら、斜線を書いてもらって、

完了したら塗りつぶしてもらってたんだけどな、

まー、あのころは、今の数倍の時間かけてもの作ってたからなー、それにこんなに部品無かったしなー。

こー、ものが複雑になってきたら、現場も今日やった作業を黒板の一覧から探して、

塗りつぶしていくなんてことお願いしたら、 怒るだろうな!。
まー俺だったらやるな。
さて、予定見るか。

とちょっと機嫌がいいみたいだ。

自分の机にもどり、昨日朝書きかけだった、新人教育用の作業要領書を書き始めました。 そこに、また試験課の課長が、怪訝そうな顔をして現れ、手には私が作成した作業予定表を持って、私では無く、課長の方へ向かって行きます。

試験課の課長

課長よ、このいとう君が作った予定だと、納期ぎりぎりのものがあるし、

すぐに仕掛からなくてもよさそうな、納期のものを先につくることになるけど、

だけど、俺だったら、こっちを先にやるけどな。なんせ工期が長いので、余裕を持って作業したいし、 こっちの小さいのは、ぎりぎりに作っても間に合うので。どうする?

と試験課の課長は、私の方を見ずに課長に話をしているが、いままでそんなこと教えてくれなかったのに。

と思い。

いとう

そうかー、わかりました、すぐ作り直します。

課長

よし、いとう君やってくれ。

いとう

すぐに直しますので、その間の作業はお任せしていいですか。

試験課の課長

わかった、たのむよ。

とちらっと私の顔を見て、試験課の課長は、事務所を出て行きました。

しまったー。

もしかして、今日も残業かもと。自分で調子のいいこと言っておきながら、ちょっと後悔しはじめました。

昨日、さんざんやったので、まだ頭の中に昨日、日程調整した各オーダの工期やリードタイムが記憶にあります。

いま言われたことは、なんとなく頭の中では整理できるのですが、これを表計算ソフトにバーチャートで記載していくのに、時間がかかります。

最初に、ボトルネックになる大型機械加工の職場の日程を引き、そこから各オーダ毎の日程も交互に修正していきます。

あー、条件入れたら、自動的に日程表ができるといいのになー。

と思いつつ、オーダ毎、作業毎に、作業の前後関係と納期や、

設備の重複がないか確認しながら、日程表を仕上げていきます。

でも、さすがに昨日やったので、今日は調子がいいようです。

このペースなら、昼過ぎには終わりそうです。

いとう

課長、昼過ぎには終わりそうですよ。昨日やったものの修正なので、意外と早くできそうです。

課長

そうか、たのむよ。俺は手書きだったからなー、いとう君が表計算ソフトで作る用になってから、 現場の受けもいいしな。今日は、定時に帰って、夕飯ごちそうするか、予定あるか?

いとう

いえ、予定はないです。ごちそうになります。

といいつつ、昨日は予定があったのに。

と彼女との昨日の気まずい電話を思い出し、しまった、今日は、彼女に昨日の穴埋めのフォローでもしておくべきだったかなー、と思ったが、また後の祭り。

どちらにしろ、夕方電話しなくては。

時計を見て、あとちょっとで昼休みだ。

なんだか、昼前には終わりそうかも。

と席を立ち、コーヒーでも飲みに行こうと思った瞬間、また電話がなっています。

ここにくる電話は、すべてトラブルを運んできます。

手配したものが遅れそうとか、現場の機械が故障したとか、納期を早めてくれとか? はては、ワークをおしゃかにしたとか。



「課長、製缶課課長から電話です」と声が聞こえ、課長が電話を取ります。

課長

えー、だめだろー、そんなー、昨日も設変で大変だったのに、

なんとかなんないのかー、そうかー、

あそこのものはしょうがないなー、 ちょっと、いとう君、今忙しいので、午後になったら現場に行かせるから。

と電話を切るなり、

課長

またトラブルだ。今度は溶接ミスで、検査から戻ってきたものを、

ばらして、再加工して、また製缶するんだが、例の大物なんだよ。こいつを製缶に戻すのは、

場所が無いので、やっかいだなー。そっちの日程表も、また書き直しだなー、 よし、しょうがないが、昨日の日程表もって、いまから営業部にいくぞ

ということで、課長と一緒に営業部に行き、昨日の日程表を見せながら、

納期調整できそうなものを営業部の部長に確認します。

結局、昨日の仕様変更になったO社のオーダを仕様変更対応を理由に遅らせることにしました。

さて、また現場にでて、昨日と同様に、こんどは、溶接ミスしたオーダの各部品の進捗を確認します。

今日は、課長も一緒です。

なにせ部品点数が多く、サブユニット、ユニット、製品となん階層もの、子部品の加工があります。

また、昨日と同様に、仕掛かり中の部品がどこまで進んでいるのか、現場を這いづりまわります。

あれ、もしかして、今日も残業かも。

部品を探しながら、朝、試験課の課長が言っていた、進捗の管理方法が気になり出しました。

いまどき、黒板に記載していくなんて原始的なことでは、この多量の仕掛かり品に太刀打ちできそうもありません。

そういえば、企画品を作っている職場では、現品表にバーコードがついていたなー。 明日にでも、どんな仕組みなのか、聞きにいって見るか?

ということで、いとう君の試練はつづく!